第1話

ここは、岩手県盛岡市の南西部──太田薬師が建つ里山。
標高407メートルと低い山ではあるが、山頂からは盛岡市内が一望できる。
すっかり日は沈み、自然豊かなこの地に静かな夜が訪れようとしていた。
だが、かつてない緊張感と張りつめた空気に包まれている。
ダメージを受けて膝をつくE6ネックスE7アズサと──、
紅蓮のオーラを放ちながら上空に浮遊する、謎の巨大怪物体が対峙していたからだ。

「くっ、オレのVVVFブラスターがちっとも効かねぇ……!」
「……自分の攻撃も、全く歯が立ちません!」
ハァハァ……と、ハナビタイジュの荒い息づかいが周囲に響き渡る。
重厚な体つきをしたその巨大怪物体は、4つの腕を有している。バッファローを思わせる鋭利な角と、不気味に光る4つの目。
全身から放たれている荒々しいオーラは、まさに“鬼神”そのものであった。

数時間前──。
突如として太田薬師に現れたこの巨大怪物体に対し、新幹線超進化研究所は近隣の住民たちを避難させた上で、シンカリオンZを出撃させることにした。
しかし、シンは現在、日本にいない。
世界の謎を解き明かすという夢を叶えるために、メキシコに留学したのだ。
だからこそ、ハナビとタイジュは気合いに満ちていた。
シンがいなくても、自分たちの力で未知なる敵に対抗してみせる──と。

 

だが、この巨大怪物体は有無を言わさず一方的に攻撃を仕掛けてきた。
4つの腕、全てに携えた巨大な剣を縦横無尽に振り回し、目にも止まらぬ早技でE6ネックスとE7アズサを圧倒してしまう。
「こんなの、ロックじゃねぇだろ……!」
悔しそうに呟くハナビだが──、
それ以上に苛立ちを募らせていたのは、大宮支部の指令室で指示を出すアブトの方だった。
ダークシンカリオンは整備中のため、出撃できない状態にある。まさかこんなタイミングで敵が現れるとは、夢にも思わなかった。
自分が戦えないばかりか、仲間が一方的に攻撃される様子を目の当たりにしたアブトは、苛立ちを通り越して怒りさえ覚えてしまう。

そんな中、オペレーション席に座る吾孫子が、愕然と言葉を漏らす。
「まさか、捕縛フィールドが展開できないなんて……」
巨大怪物体は、事前に捕縛フィールドを射出する人工衛星を破壊していたのだ。
その想定外とも言える敵の行動に、十河指令長や指令員の大石たちもショックを受けている。

「一体、何者なんだ、あの巨大怪物体は……!」
アブトが呟いたその時、研究員の三島ヒビキが指令室に駆け込んで来た。
「間違いありません! あの敵は……エージェント・カイレンです!!」
エージェント・カイレン──かつてのシンカリオン運転士、速杉ハヤトセイリュウたちが力を合わせて撃破したキトラルザスだ。
そのカイレンが、なぜ今になって復活を果たしたのか?
それはヒビキにも分からない。だが現に、こうしてカイレンが日本の平和と安全を脅かそうとしていることに間違いはない。

一方、上空に浮遊し続けるカイレンが、剣を持つ4つの腕をゆっくりと振り上げる。
紅蓮のオーラが4本の剣を包み込む。まるで、剣そのものが業火で不気味に燃え上がるかのようだ。
身構えるハナビとタイジュに向け、カイレンは4本の剣を同時に投げ放つ。
「うわああああああああ!!!」
咄嗟に避けるが、山肌に炸裂した剣の威力はすさまじく、ふたりは大きく吹っ飛ばされてしまう。
E6ネックスは上腕部が、E7アズサは脚部が破損してしまった。
地面を捲き上げる大量の土煙が、ハナビとタイジュの視界を遮る。

 

「ふたりとも、今すぐ大宮に戻るんだ!」
指令室でアブトが、声を張り上げて訴える。
『そうするしかないのかよ……!』
『悔しいですが……』
何もできなかったことに対するハナビとタイジュのやるせなさが、通信からでも伝わってくる。
だが、アブトは、
「反撃の手立てはある! 2体を修復すると同時に、E6に改良を施すんだ!」
と、力強く宣言した。
『改良!? オレのE6ネックスを、か?』
アブトの突然の提案に、ハナビは驚きを隠せない。
「ああ。実はE5とE6には新たなシステムを加える計画があってな。すでに、E5の改良は最終段階に来ている。E6に関しても、改良に必要なパーツは出来上がっているんだ」
『ちょっと待てよ……! ちゃんと説明しろって。一体、どういうことだ!?』
困惑するハナビに、アブトは高らかに言い放つ。
「パーフェクトZ合体だ!」
聞き慣れないその言葉に、ハナビとタイジュは思わず声をそろえて繰り返す。
『パーフェクトZ合体……?』
「ああ。E5とE6に付加させる新たなシステム──究極のZ合体だ! E5とE6を連結させることで完成する!」
『E5とE6の連結……! まさに東北・北海道新幹線の“はやぶさ”と秋田新幹線の“こまち”ですね!』
新しい可能性に、タイジュは期待で声が弾むが、
『だけどよ! E5は誰が運転するんだ? シンは今、メキシコだろ!?』
だが、アブトは力強く言った。
「俺が乗る」──と。
『アブト君が!?』『マジかよ……!』
ふたりは驚きの声を上げた。
「カイレンを倒すには、パーフェクトZ合体以外に方法はない!」
そう言い放つアブトは、自信に満ちあふれている。
その熱い気持ちを肌で感じたハナビは、
『分かった……! そのパーフェクトZ合体ってヤツに懸けるぜ!』
と、アブトの提案に同意する。

土煙が晴れると、E6ネックスとE7アズサは姿を消していた。
大宮支部へと退却したのだ。
カイレンは上空から、えぐられた山肌に視線を向けている。
「…………」
何やら確認するとともに、どこかへと消え去ってしまうのだった。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第2話
第1話から読む

新幹線超進化研究所 大宮支部──。
その地下格納庫で、破損したE6とE7の修復作業が行われている。
特に、E6ネックスはパーフェクトZ合体化への改良作業が伴う。
整備員たちが慌ただしく動く中、ダメージを負ったE6の上腕部が取り外され、新たなアームが取り付けられようとしていた。

その作業をハナビタイジュは、ジッと見守るしかない。

「あの4本腕ヤロー……! この借りは何百倍にして返してやるぜ」
ハナビは苛立ちを隠せなかった。
あの巨大怪物体にいいようにやられてしまったやるせなさばかりが募る。
一方、タイジュは大きく破損したE7アズサをまっすぐ見つめ、
「自分の力が足りなかったから、こんなことに……。本当にすまねぇです」
と、申し訳なさそうに呟く。
だが、強く握られたその拳は、悔しさで打ち震えていた。

「エージェント・カイレン……そいつが、なぜ今になって復活を果たしたのか……。現在、ヒビキさんが調査をしているところだ」
ふたりの背後に立つアブトがそう説明するが、
「……ハヤトさんやセイリュウさんたちが苦労の末にやっつけた敵なのですよね……」
タイジュが、思わず息を飲むように呟いてしまう。
強大な敵が相手ということに、タイジュは得体の知れない不安を抱いているのだ。
だが、ハナビが明るく言い放つ。
「は! 面白ぇじゃねぇか。相手にとって不足なしってヤツだろ。ロックにぶちかましてやろうぜッ。な、タイジュ!」
「ハナビ君……! はいッ!」
不安を吹き飛ばすかのような口ぶりに、タイジュも気持ちが前向きになる。

「なあ、パーフェクトZ合体って言ったよな? もっと早く改良できないのかよ……!」
アブトに迫るハナビの顔は、焦燥感に満ちていた。
いち早くあの巨大怪物体に一矢報いたいという気持ちが強く出てしまっている。
それを感じ取りつつも、アブトは冷静に答える。
「落ち着け。だが、お前の気持ちはよく分かる。カイレンに対抗するには、パーフェクトZ合体しかない。そのためにもさんや父さん、整備員のみんなが急ピッチで作業を進めているんだ」
「そうですよ。ハナビ君、ここはどっしり構えていかないと」
ハナビの焦る気持ちを抑えようと、今度はタイジュが力強い口調で説得する。
「……ああ、分かったぜ」
どうやらハナビも、落ち着きを取り戻したようだ。

「パーフェクトZ合体は今までのZ合体を踏襲した上で、さらなる強化を目的に開発された」
修復されているE6ネックスとE7アズサを見上げながら、アブトが力強く言った。
「ザイライナーも2つの車両を使う。それぞれが腕部と脚部に合体するんだ。そして、新たに搭載された“パーフェクトZ合体システム”が発動することで、シンカリオンZ、ザイライナーともに機体性能が極限まで増幅する」
と、アブトはハナビとタイジュを見つめ、
「まさに、さらなる進化を遂げたZ合体と言えるだろう」
そう言い切るアブトの眼差しは、かつてない自信に満ちている。
「それが、パーフェクトZ合体……!」
「すげぇッ。ロックを通り越して、パンクだぜ!」
ハナビとタイジュは興奮気味に目を輝かせる。

「こいつは父さんと島さんが中心になって開発が進められたんだ。俺も少しだが、設計の協力をすることができた」
アブトは万感の思いで、E6ネックスとE7アズサを再び見上げた。
「それに……シンとの約束を果たしたいからな。あいつが安心してメキシコに留学し続けられるように。もしも、不測の事態が起こったとしても───日本の平和と安全は、俺が守ってみせる」
勇ましく語るアブトに、ハナビとタイジュは互いに微笑み合う。

だが、ハナビは言った。
「“俺が”、じゃねぇだろ。“俺たちが”、だろ?」
「力を合わせて守り抜きましょう。日本の平和と安全を」
と、タイジュが続けると、ハナビとともにアブトに向けて拳を突き出した。
たしかにそのとおりだ──と、アブトは思う。
自分ひとりの力だけでは、日本の平和と安全は守れない。
チームシンカリオンとして一丸となり、この緊急事態に立ち向かわなければならない。
だからこそ、アブトは力強く笑みを浮かべるともに、
「ああ!」
と、ハナビとタイジュが突き出した拳に拳を重ねて、グータッチで応えるのだった。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第3話
第1話から読む

岩手の太田薬師に巨大怪物体のカイレンが現れてから、一夜が明けた。
現在、この近辺は厳戒態勢が敷かれ、誰も立ち入れない状態となっている。

捕縛フィールドを射出するための衛星が破壊されたのは、超進化研究所にとって大きな痛手であった。この衛星は巨大怪物体の出現地点を把握する、大切な追跡装置でもあるからだ。
そこで、超進化研究所は各種専門機関と連携し、日本上空に位置するあらゆる衛星から情報を得ることとなった。 カイレンがいつ現れても対応できるよう、準備が整えられている。

一方、大宮支部の地下格納庫では、整備士たちの懸命な作業によってE5E6のパーフェクトZ合体仕様への改良と、E7の修復が急ピッチで行われていた。
仮眠室で一晩を過ごしたアブトハナビタイジュだったが、地下格納庫に戻ってみると目の前に広がる光景に驚愕する。
損傷の激しかったE6とE7が、見違えるように元の凛々しい姿へと戻っていたからだ。
「すげぇ……! あんなにボロボロだったのに」
ハナビが驚きの声を上げる。
「整備士のみんなが、夜を徹して作業をしてくれたんだ」
アブトが目を輝かせながら説明する。
実はアブトも、整備士としてその作業に加わろうと考えていた。だが、整備長の島に「お前はE5の運転士でもあるんだ。休める時に休んでおけ」と優しく諭され、ハナビたちと共に休息を取ったのだ。
「本当にありがたいです……! 整備士のみなさんのおかげで、自分たちはシンカリオンZを運転できる───それを改めて知ることができました」
感動で打ち震えるタイジュは、喜びの笑顔に満ちている。

E6の完全な改良とE7の修復には、まだあと半日ほど時間がかかるそうだ。
「整備士として、俺も作業に加わる。お前たちは待機室で準備していてくれ。いつでも出発できるようにな」
アブトがそう力強く言った時、地下整備場内に緊急アラートが鳴り響く。

アブト、ハナビ、タイジュが指令室に駆け込むと、紅きオーラを放つカイレンが映し出されたモニターが3人の目に飛び込んだ。
「カイレンが出現しました! 場所は長野市戸隠、鏡池の上空です!」
だが、E6とE7は修復中──出発できる状態にない。
「マジで最悪のタイミングだぜ……!」
ダークシンカリオンは整備が終わっている。ここは、俺が行ってくる!」
「ですが、アブト君だけでは……!」
ダークシンカリオン単体では危険だと感じるタイジュだったが、
「E6とE7の修復が終わるまで、持ちこたえてみせる」
覚悟に満ちた眼差しで、アブトは指令室を駆け出して行く。

と、その時──、
『実に不愉快な存在は、僕が撃破してみせる!』
「ヤマカサ!?」
突然聞こえてきた、門司支部所属の運転士・中洲ヤマカサの声に、ハナビもタイジュも目を見張る。

デュアルスプリームウィング形と呼ばれる、特徴的な白色の前面形状は間違いなくN700S。だが、全車両に渡って、床下部分が赤く染まっている。
そして、車両の側面に描かれている、羽ばたくかもめのピクトグラム。
西九州新幹線で運転されているN700S“かもめ”の車両である。
「チェンジ! シンカリオン!」
『N700Sかもめ、シンカリオンZに変形しまーす』
自動アナウンスとともに、N700Sの車両が次々と分離──。
瞬く間に、各車両が脚部、胴体、腕へと変形していく。
『シンカリオンZ N700Sかもめ』
まるで情熱に燃えるような赤いラインが特徴的な、N700Sかもめが完成する。
右手に装着されたカモメブーメランが、金色の輝きを放つ。
「門司支部に新しく投入されたシンカリオンZだ。800つばめ同様、上空における高い戦闘能力を誇る、実に素晴らしい機体だ」
上空に浮遊するカイレンに、ヤマカサは誇らしげに言い放った。

「ヤマカサがいるなら、心強い!」
アブトはすでに、白銀の新幹線を大宮支部から出発させていた。超進化速度により、鏡池は目前に迫っている。
「チェンジ! シンカリオン!」
白銀の新幹線の車両が次々と変形していく。
『ダークシンカリオンアブソリュート』
光り輝く白銀のボディ──ダークシンカリオンアブソリュートが完成した。
アブトは、アブソリュートウイングを展開させて、上空へと飛翔する。

その時、地上から列車の警笛が聞こえてくる。
グリーンとイエローが印象的なザイライナー──883ソニックニチリンが、車体に電磁スパークを生じさせながら走ってきたのだ。
ヤマカサが、Zギアをタップする。
「Z合体、シンカリオン!」
『883ソニックニチリン、Z合体しまーす』
すると、883ソニックニチリンが変形──N700Sかもめの脚部となって合体する。
『シンカリオンZ N700Sソニックニチリン』
カモメブーメランにニチリンソードが加わった武器を手に、N700Sソニックニチリンが颯爽と構える。

「行くぞ、ヤマカサ!」
「ああ! 僕たちの強さを証明しよう!」
N700Sソニックニチリンは、脚部のニチリンジェットでカイレンに迫ると、
「ニチリンカモメボウガン!!」
右手に構えたボウガンから、エネルギー体のアローを次々と射出する。
ニチリンカモメボウガンの攻撃が縦横無尽に襲いかかるが、カイレンは4刀流の剣でいともたやすく弾き返してしまう。
しかし、ヤマカサは反撃の隙を与えまいと、続けざまに攻撃を繰り出す。
と、そこに──、
「アブソリュートソード!!」
アブトがカイレンに渾身の攻撃をしかけた。
だが、上段に構えた腕の1つで、カイレンはその攻撃を防いでしまう。
筋骨隆々とした鋼のような腕にアブソリュートソードがめり込む。
「なんて硬さだ……ッ!」
思わず息を飲むアブトに、カイレンは剛力でその腕を振りはらう!
衝撃波のようなものがダークシンカリオンアブソリュートとN700Sソニックニチリンに襲いかかる。
かろうじて避けるアブトとヤマカサだが──、
カイレンが放った衝撃波は、そのまま鏡池近くの森林に炸裂してしまった。
大爆発とともに地面がえぐられ、激しい土煙が宙空に拡散する。

アブトとヤマカサは次の攻撃をしかけようと身構えるが、カイレンはクレーターのように開いた地面をジッと見つめるばかり。
「…………」
そして、何かを確認したかのように、再びどこかへと消え去ってしまった。

この地域に大きな被害が出なかったことだけが幸いだが、アブトはカイレンの行動を不可解に思ってしまう。
「太田薬師と鏡池……かつてクサビ石が打ち込まれていた場所だ……」
1年ほど前──シンカリオンZ運転士たちが力を合わせて撃退した、破壊神アラバキ。そのアラバキを長きにわたって封印していたのが、クサビ石である。
全国数カ所に打ち込まれていたクサビ石は、太田薬師と鏡池の地下にも存在していたのだ。
「だが、カイレンはキトラルザスだ。クサビ石とは何の関係もないはず」
ヤマカサはそう言うが、
「それは分かっている……。単なる偶然か……?」
アブトは不審さを拭いきれない。
しかし、それ以上にカイレンに痛手を与えられなかったことへの悔しさが大きい。それは、ヤマカサも同じ気持ちである。
その悔しさを抱えたまま、ふたりは超進化研究所 大宮支部へ戻ることとなった。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第4話
第1話から読む

大宮支部の地下整備場に、白銀の新幹線とシンカンセンモードのN700Sかもめが到着する。
特設ホームに降り立つアブトヤマカサに駆け寄ったのは、ハナビタイジュである。
「お疲れ! ロックな空中戦だったぜ、ふたりとも!」
「アブト君もヤマカサ君も、本当に無事で良かったです……!」
ハナビもタイジュも安心するような笑みを浮かべる。
アブトとヤマカサが大きな怪我もなく戻ってきてくれたことが、何よりも嬉しかったからだ。

「まさか、ヤマカサが駆けつけてくれるとは思わなかった。本当に感謝している」
と、アブトはヤマカサに改めて頭を下げるが、
「礼には及ばない。N700Sかもめは上空を自由に飛行できる。そのおかげで、素早く駆けつけることができたからな」
ヤマカサは、N700Sかもめを見つめて、
「この未曾有の危機の中、君たちに協力できたことを───実に誇らしく思う」
と、アブトたちに勇ましい笑顔を向ける。
その言葉が素直に嬉しくて、アブトとハナビとタイジュも思わず笑みを返した。

「僕のことよりも、問題はE6E7だ。修復作業の方はどうなっている?」
ヤマカサも、カイレンによって損傷を受けたE6とE7のことが気になっているようだ。
だが、ハナビとタイジュが顔を見合わせて頷き合うと、
「それでしたら、朗報があります」
「お前らが大宮に戻ってくる間に、フィニッシュしたみたいだぜ」
その言葉に、アブトは目を見開く。
「本当か!?」
と、まるで身を乗り出すようにガシッとハナビの肩を掴んだ。

地下格納庫には、パーフェクトZ合体への改良を終えた2体──パーフェクトE5とパーフェクトE6、そして修復が完了したE7が堂々たる佇まいで屹立していた。


「おお……!」
飛び込むように駆け込んだアブトたちは、思わず感嘆の声を漏らす。
E5とE6の胴体部と上腕部、脚部の稼動部分が、金色の素材でメッキされている。
それはまさに“パーフェクト”の名に相応しい、荘厳な輝きに満ちていた。
「こまちのレッドボディに、ゴールドかよ……! マジでロックな眩しさだぜ!」
ハナビの目が輝いている。自分の機体に改めて惚れ直したという顔つきだ。
「E5もE6も、とても格好いいです!」
「ああ、見違えるようだ……! 実に美しい」
タイジュとヤマカサも、感動に打ち震えている。

「パーフェクトE5とパーフェクトE6は、基本性能を踏襲した上に、本来E5が持つ瞬発力とスピード、E6が持つ機動力を大幅に上回る改良が施されている」
威風堂々と立つE5とE6を見上げながら、アブトが説明する。
「つまり、すげぇパワーアップしたってことか!」
「パワーだけじゃない。その力に対応できるよう、武器も改善されているんだ。E5のヤマノテエキスカリバーは“ヤマノテダブルエキスカリバー”として、E6のVVVFブラスターは“ネックスVVVFブラスター改”として格段に性能が向上───」
アブトは、自信に満ち溢れた口調で語り続ける。
「さらに、新たな装備が加えられた」
「新たな装備……!?」
タイジュだけでなく、ハナビもヤマカサも色めき立つ。
「パーフェクトE5ヤマノテは、接近戦で威力を発揮する“ヤマノテクロー”と最強の防御力を誇る“ヤマノテシールド”。パーフェクトE6ネックスは、超大型ガトリング砲“ネックスガトリング”だ」
「実に頼もしい」
ヤマカサも納得の表情で頷く。

「このパーフェクトZ合体への改良は、超進化研究所が持てる技術の全てが注ぎ込まれている」
アブトは、ゴールドのきらめきを放つE5とE6から目を離せずにいた。
「俺もこの設計に関わることができたんだ……!」
アブトの夢は、シンカリオンを自らの手で一から開発すること──。
それはこの場にいる全員が知っている。
「夢の第一歩を踏み出せた、というワケだな」
あたたかい眼差しで、ヤマカサが語りかけてきた。
シンが夢に向かって───世界の謎を解き明かしたいという夢を実現させるために、メキシコに旅立ったんだ。俺も指をくわえて見ているワケにはいかないからな」
たとえ、シンがメキシコに行かなかったとしても、おそらくアブトはパーフェクトZ合体のための改良設計の手伝いをしていただろう。
だが、シンが留学したことが、アブトにとって大きな刺激となった。
シンに負けないよう、自分も絶対に夢を実現させてみせる──。
その強い想いのおかげで、アブトは改良に関する数々の難関を乗り越えることができたのだ。
それは、整備長のと父親のトコナミも目を見張るほどの努力であった。

さらにアブトにはもう一つ、大きな想いを胸に抱いている。
「このE5に───俺がシンの代わりに乗るんだ……!」
ダークシンカリオンアブソリュートの運転士であるアブトだが、E5を運転することは長年の悲願であった。
この時のために、実はアブトはシミュレーターを使ったE5の戦闘訓練を密かに重ねていたのだ。
特訓の成果を必ず発揮してみせる──。
シンの代わりとして、必ず日本の平和と安全を守ってみせる──。
アブトは誰よりも強い誓いを心に刻み、
「……頼んだぞ、E5」
と、E5にささやきかけるのだった。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第5話
第1話から読む

下町情緒あふれる繁華街──東京都台東区・上野駅周辺。
観光客やビジネスマンで賑わうこの街が、ただならぬ緊張感に包まれている。
暮れなずむ上野の上空に、紅き発光体が突如として出現したからだ。
紅蓮のオーラをまとう巨大怪物体、カイレンである。

「カイレンは上野付近に現れた模様です!」
超進化研究所 大宮支部の指令室で、既にオペレーション態勢に入っている吾孫子ら指令員たちの間にも緊張が走る。
一報を受けたアブトハナビは、全速力で地下整備場へと駆け出していた。
そんな中、アブトは走りながら思うところがあった。
──クサビ石は、上野の地下にも打ち込まれていたよな……!
はたして、これは偶然なのだろうか?
なぜ、カイレンはクサビ石が存在していた場所に出現するのか。
その理由は全く見当がつかないが、今は敵との戦いに集中するしかない。

アブトとハナビがシンカンセンモードで待機しているE5E6に乗り込む。
「いよいよパーフェクトE5とE6の出番だ……!」
「オレとお前のパーフェクトデュオで決めてやろうぜ!」
カイレンに対するリベンジに燃えるふたりは、かつてない気合いにみなぎっている。

まずは連結作業が始まる。
整備員の指示によって、E5の後方にE6がゆっくりと近づく。
互いに顔を向けた形のE5とE6──その先端部である“鼻先”がそれぞれ開くと、中から連結器が出現する。
ガシャリと、軽やかな音を立ててE5とE6の連結が完了した。
「連結完了ッス!」
整備員である細川の活気に満ちた声が、整備場内に響き渡る。

一方、タイジュヤマカサもそれぞれE7N700Sに乗り込み、援護のための出発準備を整えている。だが、まずはアブトとハナビの無事の出発が待ち遠しい。
「アブト君、ハナビ君。先陣は任せました……!」
「実に効率の良い攻撃を期待している」
タイジュとヤマカサが、通信でアブトとハナビに声をかける。

アブトとハナビはそれぞれの運転席で、超進化マスコンと呼ばれるアクセルレバーを右手で強く握りしめていた。
すると、ポ〜ンというサイン音とともにアナウンス音声が鳴り響く。
『この車両は、上野行きです』
「ここからはE5とE6の協調運転により、目的地まで運行される。俺たちふたりの力が、“連結超進化速度”を生み出すんだ」
「連結超進化速度……!? すげぇロックなシステムだな!」
初めて聞く名前に、ハナビも胸が高鳴る。
すると、前方の出発信号機が青信号──進行現示に切り替わった。
「シンカリオンZ E5!」
「シンカリオンZ E6!」
アブトとハナビは声を揃えて言い放つ。
「「出発進行!!」」
E5を先頭に、連結状態でE6とともに東京・上野方面へ向けて出発する。


※実際のシンカリオンZの玩具に連結機能はありません。

E5とE6は、またたく間に超進化速度に到達した。
だがここからは、それを超える速度で走行することになる。
「ハナビ、さらに加速させるんだ!」
「オーケー!」
アブトとハナビは、超進化マスコンをフルノッチにする。
『連結超進化速度、加速しまーす』
アナウンス音声が流れると、すさまじいモーター音が車内に轟く。高速で走る影響か、車体はいつもより揺れが激しい。
ふたりとも超進化マスコンを握る手に、より力が入る。

『連結超進化速度、到達!』
通信で吾孫子の声がアブトとハナビの耳に入る。
「「チェンジ! シンカリオン!!」」
ふたりが掛け声を上げると、E5とE6の車両が次々と分離──。
瞬く間に各車両が脚部、胴体、腕へと変形すると、パーフェクトZ合体のために改善されたE5はやぶさとE6こまちが完成する。
可動部分のゴールドメッキが、眩しい輝きを放つ。

『ザイライナーを出発させました!』
さらに、吾孫子から通信が入る。見ると、ザイライナー E235ヤマノテとザイライナー E259ネックスが、車体に電磁スパークを生じさせながら走ってくる。
アブトとハナビは、ZギアのZボタンをタップ。
「「パーフェクトZ合体! シンカリオン!」」
すると、E235ヤマノテとE259ネックスの車両が変形し始める。
パーフェクトE5の上腕部が外れ、“ヤマノテシールド”と“ヤマノテダブルエキスカリバー”が左右の腕に装着される。さらに脚部には、カギ爪のような部位である“ヤマノテクロー”が加わった。
一方、パーフェクトE6の両肩には“ネックスVVVFブラスター改”と“ネックスミサイル”が備えつけられ、右手に重厚な“ネックスガトリング”が装備される。
『シンカリオンZ パーフェクトE5ヤマノテ』
『シンカリオンZ パーフェクトE6ネックス』
2体のパーフェクトZ合体が、ついに完成する。


緊急の避難命令が下され、誰一人としていない上野の街に──、
パーフェクトE5ヤマノテとパーフェクトE6ネックスが、威風堂々と並び立つ。
その可動部分できらめくゴールドの輝きは、まさに希望の光に満ちていた。
一方、浮遊するカイレンが噴き出す紅きオーラが、さらなる勢いを増して燃え上がる。
だが、ハナビとアブトは一切怯むことなく、力強く言い放つ。
「覚悟しろよ、4本腕ヤロー!」
「日本の平和と安全は、必ず守ってみせる!」

睨み合う三者──。
激しい戦いが、今まさに始まろうとしている。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第6話
第1話から読む

夜のとばりが完全に下り、不気味な静寂が上野の一帯を支配する。
浮遊するカイレンが噴き出す紅蓮のオーラは、まるで激しく燃え盛るかがり火のようにパーフェクトE5ヤマノテとパーフェクトE6ネックスを照らし続ける。
強い緊張に、空気が軋む──。

だが、アブトハナビの出方をうかがっているのか、カイレンは攻撃をしかける気配がない。
「ハナビ、ここは先制攻撃だ!」
「オッケー! ロックに行くぜ!!」
ふたりは突進する。だが次の瞬間、カイレンがすさまじい速さでパーフェクトE5ヤマノテに迫り──、
4本の腕を全て振り上げ、巨大な剣を同時に振り下ろした。
それをアブトは、強化されたヤマノテシールドでガード! すぐさま、右腕に装備されたヤマノテダブルエキスカリバーで反撃に回る。
カイレンは4つの巨剣で、その攻撃に対抗する。

ガキィィィィィィィッ!

剣と剣がぶつかり合い、上野の夜空に強烈な火花が散る。
パーフェクトE5ヤマノテとカイレンは、つば迫り合いとなった。
力はまだまだカイレンの方が上であることは、直感的にアブトも感じている。
だが、こうしてパーフェクトE5ヤマノテがカイレンに肉薄できていることは、アブトに確かな自信を与えた。
「おい、4本腕ヤロー! テメーの相手はここにもいるぜ!」
パーフェクトE6ネックスが、ネックスガトリングをぶっ放す。

強烈な爆撃が炸裂!
一瞬ではあるが、カイレンを後退させることに成功した。
「行けるぜ、オレたち!」
「ああッ!」
アブトは嬉しさを隠せなかった。
父親のトコナミと整備長のが中心となって改良された2体のシンカリオンZが、強敵カイレンに対抗できている──それだけではない。
E5にアブト自身が乗り込み、こうして十二分に渡り合えていると実感できたからだ。
「次でフィニッシュしてやるぜ!」
「だが、油断するな。確実に仕留めるんだ!」
アブトとハナビのボルテージは最高潮に達する。
だが、カイレンが猛烈な反撃を繰り出した。まるで何かのタガが外れたかのように、4つの巨剣を縦横無尽に振り回す。
ますます燃え上がる紅きオーラが、カイレンにさらなる力を与えているかのようだ。
たまらず防御に回るアブトとハナビだが、それでもふたりは決して怖気づくことはなかった。
パーフェクトE5ヤマノテに強烈な一太刀を繰り出すカイレンだが、その動きを見切ったアブトがすんでの所で避ける。
その勢いで背を向ける形となるカイレン──その隙を、アブトもハナビも見逃さなかった。
「派手に決めるぜッ! ネックスVVVFフルバースト!!!」


パーフェクトE6ネックスが、ネックスガトリング、ネックスVVVFブラスター改、ネックスミサイルを一斉に発射する。
最強の火力を誇る必殺技が直撃し、カイレンはすさまじい爆炎に飲み込まれた。
すると、パーフェクトE5ヤマノテが大地を蹴って大跳躍!
その脚部に装備された、鋭利なカギ爪がカイレンに迫る。

「ヤマノテクローーーーーーッ!!」


カギ爪で挟み込まれたカイレンの上半身が、がっしりと固められた。
「これで終わりだ! うおおおおおおおおおおおッ!!!」
アブトが叫ぶ中、パーフェクトE5ヤマノテはカイレンをその身体ごと地上に叩き落とす。

ズガァァァァァァァァンッ!!

地面をえぐる強烈な衝撃音が轟き、すさまじい土煙が周囲を舞う。
この衝撃で生じたクレーターの底に、カイレンは埋もれる形で倒されていた。その身体から噴き出ていたオーラも、消えつつあるかがり火のように鎮静化している。
どうやら、勝負ありのようだ。
「っしゃあああああッ! 決まったぜーーーーー!!」
歓喜にわくハナビの叫びが、上野の街に響き渡る。
「ああッ! やったぞ、みんな……! やったぞ、シン!!」
アブトは喜びのあまり、思わずシンの名前を口にしていた。

だが、その時だった──。
倒れていたカイレンの持つ4本の剣が、突如として紅きオーラで燃え上がる。
と、次の瞬間、パーフェクトE5ヤマノテとパーフェクトE6ネックスに向けて勢いよく投げ放つ。
「!?」
咄嗟にその攻撃を避けるアブトとハナビだが、その刃は空気を両断していた。強烈な風がそれぞれの身体に襲いかかる。
しっかりと地に脚を踏みしめていなければ、風圧で飛ばされていたに違いない。

見ると、カイレンがゆっくりと立ち上がっていた。
そして、まるで先ほどの攻撃などなかったかのように、微塵もダメージを感じさせない様子で宙空に浮遊する。
『この程度か』
そう言わんばかりに、カイレンの顔が邪悪な笑みでゆがむ。
アブトとハナビにはそう見えてしまった。
「……なんなんだよ? こんだけ攻撃食らったのに……!」
「無敵なのか、こいつ……!?」
カイレンが咆哮を上げると、4つの腕に再び巨剣が出現する。そして、その咆哮に呼応するかのように、全身から紅蓮のオーラが爆発的に噴出した。
それは、おぞましい怨念に満ちているかのよう──。
さすがに、アブトとハナビも息を飲まざるを得ない。
持てる力の限りを尽くして戦ったというのに、カイレンはそれをはるかに上回る力を見せつけてきたからだ。
自分自身の非力さに対する苛立ちと怒り、そして得体の知れない恐怖が、アブトの身体を震えさせるのだった。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第7話
第1話から読む

不忍池の上空に、巨大怪物体のカイレンが再び浮遊する。
すさまじい紅蓮のオーラを放ち続けるその姿は、かつてない怒りと怨念に満ちている──ありあまる莫大な負のエネルギーを全身に溜め込んでいるようにも見えた。
アブトハナビは、ただただ呆然と見上げるしかない。


と、その時──、
『アブト君、ハナビ君』
「ヒビキさん……!」
ふたりが乗るそれぞれの運転席に、ヒビキから通信が入る。
『エージェント・カイレンが復活したと思われる理由が判明しました』
これまでカイレンが出現した2箇所の土地──太田薬師と鏡池で、超進化研究所の研究員たちによる解析調査が行われたようだ。
目的は、戦いの余波によって残されているであろう、カイレンの痕跡──。
ごく微量ではあるが、カイレンのものと思われる部位の一部が採取されたという。
『それを分析したところ、新たな事実が分かったのです。これは……驚くべき内容です』
「……!?」
アブトとハナビは上空で浮遊し続けるカイレンを目の当たりに、固唾を飲んでヒビキの話を聞き続ける。
『アラバキの身体を構成していた物質と、同じ反応が確認されたのです……!』
思いがけないヒビキの言葉に、アブトもハナビも驚きを隠せない。
「アラバキって、オレたちが倒したあのアラバキか!?」

かつて日本各地に打ち込まれていたクサビ石によって封印されていた、最凶の破壊神。
今から1年ほど前、テオティによってその封印が解かれ、アラバキは復活を果たしてしまった。
だが、シンやアブトたちシンカリオンZの運転士たちの活躍によって、アラバキを撃退することに成功したのだ。

「アラバキの身体と同じ反応って……一体、どういうことですか?」
アラバキとカイレン。この2つの生命体に、直接的なつながりや関係性は一切ない。
アブトにとってそこが不可解であった。
『……カイレンは3年前───ハヤト君たちが倒した敵のはずですが、その肉体は完全に滅んではいなかったのでしょう』
「まさか、カイレンの身体を使って、アラバキが復活したとでも……?」
ヒビキの説明に対して、アブトがそう予測する。
『その可能性は高いです。爆散したアラバキの肉体の一部が融合し、亡き者であるはずのカイレンを操っているものと推測されます』
ヒビキは重々しい口調で、超進化研究所としての結論を伝えた。
「……今のカイレンは、完全にアラバキの操り人形ということになるのか」
アブトは思わず呟く。バラバラだったパズルのピースが1つに繋がるような思いがした。
クサビ石が地下に打ち込まれていた場所である太田薬師と鏡池、そしてここ上野に現れた理由が何となく理解できたからだ。
もちろん、クサビ石は今や存在しない。
だが、かつて自分を封じ込めていた憎しみのようなものが強く働いて、アラバキはそれらの土地へと誘われたのだろう。

「……なぁ、死んだはずの4本腕ヤローが復活って……」
ハナビがゴクリと息を飲むと、
「それ、ゾンビってヤツなんじゃねぇのか……?!」
と、言葉を漏らす。
『ある意味、その言い方は正しいかもしれません』
ヒビキはそう答えるしかなかった。
蘇ったカイレンに、かつての崇高な思想は微塵もない。
破壊神アラバキの生き写しとして、ただ人類を破滅へと導かんとする脅威の存在と化している。
──もはや、なす術はないのか……!?
アブトが思ったその時だった。

「だったら、成仏させてやらないとな!」

突然、聞き覚えのある声が、アブトの耳に飛び込んでくる。
共に死闘を戦い抜いた、アブトが最も信頼を寄せる友──。
そうだ、あいつの声に間違いない!
「シン……ッ!!」
メキシコに留学しているはずの新多シンが、駆けつけたのだ。
「お前、帰ってたのかよ!!」
ハナビも喜びに満ちた声を張り上げる。
「ああ、たった今な!」
「この緊急事態を知って、急いで帰国したのでございま〜す」
シンの傍らで、スマットが意気揚々と浮かび上がった。
西日暮里駅付近の東北・上越新幹線の線路上には、シンカンセンモードのE7かがやきとN700Sかもめ、そして回送運転された白銀の新幹線が待機しているようだ。
シンとスマットは、タイジュヤマカサと共にこの場へと来てくれたことになる。

「シン、スマット……! 来てくれるとは思わなかったぞ!」
思いがけない状況に、アブトは嬉しさで打ち震える。
メキシコの強い陽射しを受けた影響か、シンの肌が焼けているように見える。背丈も少しだけ伸びているような気もする。
だが、まっすぐな眼差しと勇ましい笑顔は、以前と全く変わらない──。
ついついシンに見とれてしまうアブトだったが、今は感慨に浸っている場合ではない。一刻も早く、目の前の凶悪な敵に対処する必要がある!

アブトはグッと気持ちを引き締め、大声で言い放つ。
「シン、ここはお前の力が必要だ! 俺たちに協力してくれ!!」
「当ッたり前だろ!」
「そのために駆けつけたのでございますからね!」
すると、シンは威勢よく親指を突き立てて、
「オレたちの力、見せてやろうぜ!!」
と、アブトに向けて力強く宣言する。
その姿は、太陽のようにまぶしい──。
まさに、希望の光に満ちあふれていた。


つづく

キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第8話
第1話から読む

パーフェクトE5ヤマノテとパーフェクトE6ネックスの前に、急遽メキシコから帰国したシンスマットが駆けつけてくれた。
上空にはアラバキの操り人形と化したカイレンが、紅き邪悪なオーラを漂わせて浮遊し続けている。

日本の平和と安全を脅かす凶悪な敵を前に、アブトがなすべき選択は一つだった。
「シン、俺の代わりにこのパーフェクトE5ヤマノテに乗るんだ!」
「オレが……!?」
突然の提案に、シンも戸惑いを隠せない。
だが、アブトは続けた。
「俺はダークシンカリオンに乗り換える。それに、コイツは───お前のE5なのだからな!」
「アブト……!」
自分に乗って欲しいと願うアブトの強い想いが、シンの心を震わせた。
同時に、身体の奥底から熱い気持ちがこみ上げる。
「シン、行くであります!」
スマットがシンの背中を後押しする。
シンはしっかり頷くと──、
「分かった!!」
と、パーフェクトE5ヤマノテに向かって全速力で駆け出した。

シンが乗り込んだパーフェクトE5ヤマノテが、右腕のヤマノテダブルエキスカリバーを颯爽と構える。
「気合い入れて行くゼーーーット!」
インターロックをして、いつものようにキャラが変わったスマットが、ひときわ大きな声を張り上げる。
「ああ! 日本の平和と安全は───必ず守ってみせる!」
パーフェクトE5として生まれ変わったこのE5ヤマノテに、シンもワクワクが止まらない。
さらに、シンカリオンZに変形したパーフェクトE6ネックス、E7アズサ、N700Sソニックニチリン、ダークシンカリオンアブソリュートも並び立つ。
シンが来てくれたことで、ハナビもタイジュもヤマカサも、そしてアブトも全身に熱い血潮が駆け巡る。

一方、カイレンの発する紅蓮のオーラがさらに激しさを増す。
それはまさに、地獄の業火のごとく燃え上がっていた。
その眼差しに浮かぶ怨嗟は、これまで以上の険しさに満ちている。
だが──、
「行くぞ、カイレン! うおおおおおおおおおッ!!」
シンは臆することなく、激しい雄叫びとともにカイレンに攻撃を仕掛けた。
咄嗟にカイレンは、4本の剣を縦横無尽に振り下ろす。
ガキィィィィィィッ!
パーフェクトE5ヤマノテがヤマノテシールドで防御する。剣と盾がぶつかり合うすさまじい衝撃音が響き渡った。
すぐさま、シンはヤマノテダブルエキスカリバーで反撃に回る。
久々の戦闘にシンも気合いがみなぎっているのか、遮二無二攻撃を繰り広げた。
「すごいパワーだ……! これがパーフェクトZ合体の力か!」

シンの勇猛果敢な戦いぶりに、思わずアブトは目を見張ってしまう。
華麗に舞いながらヤマノテシールドで防御しつつ、ヤマノテダブルエキスカリバーを振るい続ける。
その姿は、両翼を広げて敵を攻め立てる鳥のハヤブサそのもの──。
まさに、シンとパーフェクトE5ヤマノテは一心同体となって戦っている。
そこにアブトは、えも言われぬ “美しさ”を感じたのだ。
「やはり、E5の運転士はあいつしかいない……!」
気付いたら、アブトはそう呟いていた。

もちろん、そこに悔しさはないと言えばウソになる。シンカリオンZ E5が開発された当初は、アブトがE5を運転する想定であったからだ。
だが、シンとパーフェクトE5ヤマノテの戦いぶりは、その悔しさをも凌駕する清々しさに満ちあふれていた。
これで良かったのだと、アブトは心の底から感じてしまう。
それに、自分には──ダークシンカリオンアブソリュートがいるではないか!
ハナビタイジュヤマカサ! 俺たちは援護に回るぞ!」
アブトの掛け声に、3人は気持ちよく応える。
「ああ! バックサウンドもロックに行くぜ!」
「自分、全力で行きますよ!」
「僕たちの見事な連携を見せる時だ!」
パーフェクトE6ネックスのネックスVVVFフルバーストが、E7アズサのアズサコウデンアツアックスが、N700Sソニックニチリンのニチリンカモメボウガンがカイレンに炸裂する。
続け様に、アブソリュートウイングで接近したダークシンカリオンアブソリュートが、アブソリュートソードを渾身の力で振り下ろす。
すさまじい連続攻撃によって、カイレンに一瞬の隙が生じた。
「とどめは頼む、シン!」
アブトは全幅の信頼をこめて言い放つ。
「ああ!」
その信頼に応えようと、シンはその全身に渾身の力を込める。
それに連動するかのように、パーフェクトE5ヤマノテの胸部にエネルギーが充てんされていく。
「オレは───みんなの夢を絶対に守り抜く!!」
シンは、あらん限りの大声を張り上げた。
「パーフェクトZグランクロス!!!」


強大なグランクロスが、激しい光の束となって一直線にカイレンへと突き進む!
神々しいきらめきを伴うグランクロスに、カイレンはなす術なく──、
激しい爆発に飲み込まれる。
爆炎が止むと、カイレンの姿は消えていた。

「おっしゃあぁぁッ! 勝ったぜーーーーーーッ!!」
「お見事です、シン君!!」
「実に素晴らしいグランクロスだった!」
すぐに、ハナビとタイジュとヤマカサの歓喜に沸く声が響き渡る。

そんな中、パーフェクトE5ヤマノテとダークシンカリオンアブソリュートはお互いを見つめ合っていた。
すると、シンが爽やかに言い放つ。
「オレ、嬉しかった。こうしてまたみんなと……アブトと一緒に戦えて」
「ああ。俺もだ」
素直に答えるアブトに、パーフェクトE5ヤマノテがスッと拳を突き出す。
「シン……!」
思わずアブトは笑みをこぼすと──、
ダークシンカリオンアブソリュートで拳を突き出し、グータッチで応えるのだった。


キッズバージョンはこちら キッズバージョンはこちら
(全8話まとめ)

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話

第6話

第7話

第8話

ヤマノテクライシス
『劇場版新幹線変形ロボ シンカリオン』のサイトはこちら
『新幹線変形ロボシンカリオン』のサイトはこちら!
おもちゃ情報
オンラインショップ
桃太郎電鉄コラボ 12月2日からダウンロードできるぞ!
子育て支援事業「HAPPY CHILD PROJECT」:JR東日本 (jreast.co.jp)
ページトップ
ページトップ