第1話
ここは、岩手県盛岡市の南西部──太田薬師が建つ里山。
標高407メートルと低い山ではあるが、山頂からは盛岡市内が一望できる。
すっかり日は沈み、自然豊かなこの地に静かな夜が訪れようとしていた。
だが、かつてない緊張感と張りつめた空気に包まれている。
ダメージを受けて膝をつくE6ネックス、E7アズサと──、
紅蓮のオーラを放ちながら上空に浮遊する、謎の巨大怪物体が対峙していたからだ。
「くっ、オレのVVVFブラスターがちっとも効かねぇ……!」
「……自分の攻撃も、全く歯が立ちません!」
ハァハァ……と、ハナビとタイジュの荒い息づかいが周囲に響き渡る。
重厚な体つきをしたその巨大怪物体は、4つの腕を有している。バッファローを思わせる鋭利な角と、不気味に光る4つの目。
全身から放たれている荒々しいオーラは、まさに“鬼神”そのものであった。
数時間前──。
突如として太田薬師に現れたこの巨大怪物体に対し、新幹線超進化研究所は近隣の住民たちを避難させた上で、シンカリオンZを出撃させることにした。
しかし、シンは現在、日本にいない。
世界の謎を解き明かすという夢を叶えるために、メキシコに留学したのだ。
だからこそ、ハナビとタイジュは気合いに満ちていた。
シンがいなくても、自分たちの力で未知なる敵に対抗してみせる──と。
だが、この巨大怪物体は有無を言わさず一方的に攻撃を仕掛けてきた。
4つの腕、全てに携えた巨大な剣を縦横無尽に振り回し、目にも止まらぬ早技でE6ネックスとE7アズサを圧倒してしまう。
「こんなの、ロックじゃねぇだろ……!」
悔しそうに呟くハナビだが──、
それ以上に苛立ちを募らせていたのは、大宮支部の指令室で指示を出すアブトの方だった。
ダークシンカリオンは整備中のため、出撃できない状態にある。まさかこんなタイミングで敵が現れるとは、夢にも思わなかった。
自分が戦えないばかりか、仲間が一方的に攻撃される様子を目の当たりにしたアブトは、苛立ちを通り越して怒りさえ覚えてしまう。
そんな中、オペレーション席に座る吾孫子が、愕然と言葉を漏らす。
「まさか、捕縛フィールドが展開できないなんて……」
巨大怪物体は、事前に捕縛フィールドを射出する人工衛星を破壊していたのだ。
その想定外とも言える敵の行動に、十河指令長や指令員の大石たちもショックを受けている。
「一体、何者なんだ、あの巨大怪物体は……!」
アブトが呟いたその時、研究員の三島ヒビキが指令室に駆け込んで来た。
「間違いありません! あの敵は……エージェント・カイレンです!!」
エージェント・カイレン──かつてのシンカリオン運転士、速杉ハヤトとセイリュウたちが力を合わせて撃破したキトラルザスだ。
そのカイレンが、なぜ今になって復活を果たしたのか?
それはヒビキにも分からない。だが現に、こうしてカイレンが日本の平和と安全を脅かそうとしていることに間違いはない。
一方、上空に浮遊し続けるカイレンが、剣を持つ4つの腕をゆっくりと振り上げる。
紅蓮のオーラが4本の剣を包み込む。まるで、剣そのものが業火で不気味に燃え上がるかのようだ。
身構えるハナビとタイジュに向け、カイレンは4本の剣を同時に投げ放つ。
「うわああああああああ!!!」
咄嗟に避けるが、山肌に炸裂した剣の威力はすさまじく、ふたりは大きく吹っ飛ばされてしまう。
E6ネックスは上腕部が、E7アズサは脚部が破損してしまった。
地面を捲き上げる大量の土煙が、ハナビとタイジュの視界を遮る。
「ふたりとも、今すぐ大宮に戻るんだ!」
指令室でアブトが、声を張り上げて訴える。
『そうするしかないのかよ……!』
『悔しいですが……』
何もできなかったことに対するハナビとタイジュのやるせなさが、通信からでも伝わってくる。
だが、アブトは、
「反撃の手立てはある! 2体を修復すると同時に、E6に改良を施すんだ!」
と、力強く宣言した。
『改良!? オレのE6ネックスを、か?』
アブトの突然の提案に、ハナビは驚きを隠せない。
「ああ。実はE5とE6には新たなシステムを加える計画があってな。すでに、E5の改良は最終段階に来ている。E6に関しても、改良に必要なパーツは出来上がっているんだ」
『ちょっと待てよ……! ちゃんと説明しろって。一体、どういうことだ!?』
困惑するハナビに、アブトは高らかに言い放つ。
「パーフェクトZ合体だ!」
聞き慣れないその言葉に、ハナビとタイジュは思わず声をそろえて繰り返す。
『パーフェクトZ合体……?』
「ああ。E5とE6に付加させる新たなシステム──究極のZ合体だ! E5とE6を連結させることで完成する!」
『E5とE6の連結……! まさに東北・北海道新幹線の“はやぶさ”と秋田新幹線の“こまち”ですね!』
新しい可能性に、タイジュは期待で声が弾むが、
『だけどよ! E5は誰が運転するんだ? シンは今、メキシコだろ!?』
だが、アブトは力強く言った。
「俺が乗る」──と。
『アブト君が!?』『マジかよ……!』
ふたりは驚きの声を上げた。
「カイレンを倒すには、パーフェクトZ合体以外に方法はない!」
そう言い放つアブトは、自信に満ちあふれている。
その熱い気持ちを肌で感じたハナビは、
『分かった……! そのパーフェクトZ合体ってヤツに懸けるぜ!』
と、アブトの提案に同意する。
土煙が晴れると、E6ネックスとE7アズサは姿を消していた。
大宮支部へと退却したのだ。
カイレンは上空から、えぐられた山肌に視線を向けている。
「…………」
何やら確認するとともに、どこかへと消え去ってしまうのだった。
つづく
(全8話まとめ)